猫とワタシ

ご供養物語

2014年6月 大日如来さまに導かれて始まった 広く深い故人のご供養のお話

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この記事のみを表示する47番目は市三さん

供養

47番目にご供養させていただいた市三さんは かわら版屋さんでした。

市三さんの話では、記事は自分で探してきて 彫りだけ職人さんに頼み、そして自分で売りさばく というのがかわら版屋のお仕事だったそうです。

ある日 市三さんは、親子ほども年の離れたふたりの心中を記事にしました。
そのふたりは 武家の奥方とその家に出入りする若侍だったことから、かわら版は飛ぶように売れ 市三さんの懐はずいぶんとふくらんだそうです。

でも 市三さんはそのことで 悔いても悔いきれない 思いを残しているのだとか。


あれは心中なんかじゃなかった
あたしが見たのは、無理やりお互いの胸に短剣を突き刺すよう仕向けられた姿だったんですよ

だが それをやっていたのは目つきの鋭い浪人者
それも 誰かに雇われて ということは すぐに察しがつきました
でもね あたしが見ている事に、浪人者は気が付いたんです

すると浪人者が目配せした相手があたしに近づいてきて 言ったんです

身元を教えてやろう
さすれば 明日かわら版として広められるだろう
これは 心中である
不義密通の上の 心中であるぞ

そうして 身元を教えてくれた後、3枚の小判を渡されたんです

どうすることも出来なかった
あたしには 奉行所に訴え出るより、かわら版として売る方がお金になるし 先に3両もらっちまいましたしね

でも 今でも恥ずかしいと思っているんですよ
あの二人に 詫びたいと思っているんです・・・


そういうことでしたか。

では そのおふたりに来ていただきましょう。

上品そうな武家の奥方と、確かに親子ほども年の違う若侍が連れ立ってやってきました。

市三さんの話をしました。
市三さんは 離れたところで愛と信頼の木の実をほおばっています。

そうでしたか・・・
私どもは心中などという大それたことはしておりません
ましてや 不義密通だなんて

とふたりで顔を見合わせて 笑い出しました。

そうです 不義密通だなんて 濡れ衣にしても笑い話にもならない

若侍もそう 笑いながら言いました。

実際は 齢の離れた異母弟だったそうです。

奥方は武家の生まれではなく、大店のひとり娘だったそうですが、行儀見習いと称して上がった先で見初められ 養子縁組をした後 正妻として迎えられたそうです。

父は地方に出掛けるたびに利用していた旅籠で、ねんごろになったおなごがおりました
私とさほど年が違いませんでした
母は早くに亡くなっておりましたから、父は後添えに と考えたそうですが、田舎者だから とどうしても街中に来ることを拒んだそうです

しかし 子が出来た・・・
しかも 男の子

父の喜びようは 如何ばかりだったでしょうねぇ

奥方は目を細めて 愛おしそうに話を続けました。

ですが その頃は既に店は他のものに譲っておりましてねぇ
せっかくの跡取り息子に 何も残せない と歯がゆい思いをしたようです

そうしたことをみな わたくしに文で知らせてきておりました
その文を見られてしまったのです
勝手にわたくし宛の文を見たのは、我が家の家来でしたがその家来が今の店の主と通じておりました

やがては 店を乗っ取られる とおびえたのでございましょう

わたくしどもに 会いたい と文を届けさせ、会っているところにやってきました
ご覧のとおり 異母弟もだんな様の手配で養子縁組を済ませ 侍として生きることに決めていたのに・・・

世間が何も知らないことを良いことに、不義密通だの 心中だのと騒がせたのです

それはひどい話でしたね。

その頃のだんな様は体の具合が思わしくなく、その家来の言うなりになっていましたしねぇ・・・
弟には申し訳ないことをしましたが、わたくしはあのまま生きていても家来にもてあそばれる運命なのではないか とうすうす感じていましたから、弟と一緒に死ねたことは特に残念だと思っていないのでございます

それは私も同じこと
せっかく養子縁組をいただき、武士の端くれとして生きることに決めましたが やはり 馴染めなかった
このままでは いつか養子先を飛び出していたでしょう
そうすれば 姉上にも兄上にも迷惑がかかる

心中などということではありませんが、やはり 残念だとは思っていないのです


あらあら・・・

市三さんに来ていただきました。

あたしが妙なかわら版を売ったせいで、ご迷惑をおかけしました

神妙に頭を下げましたが、奥方も若侍も笑うだけ。

もう 良いんですよ

そう言って、ふたりは頷きあうと 光の元へと還っていきました。


市三さん どうされました?

いえいえ こんな話だとつゆ知らず・・・
それにしても ずいぶんと懐の広いお方でしたねぇ

懐が広い というのでしょうか
先を見据えていた というのでしょうか

どちらにしても、そういう人生だった ということ。

市三さんも しっかりと木の実を食べられて 後はゆっくりと光の元へと還っていかれました。


ありがとうございます(^人^)


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