猫とワタシ

ご供養物語

2014年6月 大日如来さまに導かれて始まった 広く深い故人のご供養のお話

この記事のみを表示する31番目 ごんたさん

供養

 31番目はごんたさんです。
なにやら同じお名前が出ているような気もしますが、同名の方はいて当たり前 という事ですね。


 ごんたさん とても体の大きな方です。
山で伐採の仕事をしていました。気は優しくて力持ち を地でいくような そんな人でした。

 ある日、見知らぬ女性がごんたさんの家を訪れました。こんなことは今までなかったことです。
とてもきれいな女性で、しばらく置いてもらえないか と言いました。

 男所帯なので、何もできないが と言い置いて山に出かけました。

 帰ってみると、家の中はきれいに掃除をされており、夕餉の支度も出来ていました。
なんてことだ! ごんたさんは喜びました。

 こうして数ヶ月が経ちました。
千登勢さん というその女性は、ごんたさんを優しい目で見るようになり、そのうち女房になりました。
ごんたさんは毎日がとても幸せでした。

 ところがある日 仕事から帰ってくると千登勢さんの姿がありません。夕餉の支度も整っていません。

 胸騒ぎがしました。

結局 ごんたさんはそれっきり 千登勢さんとは会うことはありませんでした。


 ごんたさん 千登勢さんに会いますか?

もちろんだ
なぜ 急にいなくなったのか それを知りたい
元気でいるのだろうか
誰かに殺されてしまったのではないだろうか

ずっと心配してきたんだ


 ごんたさんに木の実を渡した後、千登勢さんを呼びました。

 穏やかそうな素敵な女性です。
ごんたさんの心配を伝えました。


 そうでしたか
黙って出てしまったので、私も気がかりでした

そう言って事の顛末を話してくれました。


 千登勢さんはある商家でお嬢様付きの侍女をしていました。ある時 見た目の優しそうな男の人に声を掛けられました。

 千登勢さんはその男に恋をしました。しかし、ある日その男はお嬢様をかどわかして お金を得ようとしていることを知りました。

 そんなことをさせるわけにはいかない と、旦那さまにすべてを話しました。

 よく話してくれたね

旦那さまはそう 言ってくれました。そしてお嬢様の外出には、千登勢さんではなく男の人が付くようになりました。

 そうなってみると、恋仲になった男に会うことは怖くて千登勢さんは暇を乞うことにしました。

 そうやって 千登勢さんは流れてごんたさんのところまで来たそうです。
これまでにもその男に見つけられそうになると、千登勢さんは逃げていたそうです。


 ごんたさんを選んだのは、あの男を殺してくれるかもしれない と思ったからです
でも 一緒に暮らすうちに、この人には絶対に人殺しをさせてはいけない と思うようになりました

 町で男を見かけたので、ごんたさんに迷惑がかからないように と家を出ました


そんな風に話してくれました。
そこへごんたさんがやってきました。

 千登勢 無事でいたのか?

ごんたさん!!

 ふたりは抱き合いました。しっかりと抱き合って、これまでのことをみんな 忘れました。

 やがて 光の元へと還ろうとしましたが、千登勢さんの体はまるで油でギトギトになったようにしか 輝きません。

 
 千登勢さん まだ何か心にあるのではないですか?

そう声を掛けました。

 実は・・・

千登勢さんが話を始めました。
商家を出るとき、千登勢さんはそれほど多くのお金を持っていませんでした。ですから、お店のお金に手を付けたのだそうです。

 しかも ひとりで出たのではなく、男と一緒。
お嬢さんをかどわかすのは止めて と、男にお金を差し出したのです。

 しばらくはその男と暮らしました。
お金が無くなると男は、その町でも同じことをしようと 千登勢さんに持ちかけました。

 それが嫌で 男から逃げ出したそうです。

商家の旦那さまに来てもらいました。


 おお 千登勢か
あの時は世話になったが その後どうしていたのかね?


旦那さまは千登勢さんを案じるばかり。お金のことは何も知らない様子です。


 旦那さま
あの時 私はお店のお金に手を付けました
話したことに間違いはありませんが、そのお金を持って男と町を出ましたから、旦那さまには合わす顔がありません

 そうだったのかね
あの後 妻と千登勢に持たせてやればよかったな と話していたのだよ
気に病むことはない


 そんな風に言われ、千登勢さんは大泣きに泣きました。
その話を聞いていたごんたさんも、千登勢さんの背中を優しく撫でています。


 すべてを涙で洗い流した千登勢さんは、すっきりとした笑顔で旦那さまにありがとうございます と伝え、ごんたさんの手を取りました。

 透明なエレベーターに乗っているように、静かに二人は光の元へと還っていきました。



ありがとうございます。
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この記事のみを表示する30番目 千代さん

供養

 今夜は千代さんと仰る女性です。
昨日渋谷からの帰り道、薄いオレンジ色のバラを買ってきました。 なんとなく女性が良いかも と思ったのですが、前回も女性でしたね(笑)

 さて 千代さんですが、とてもしとやかな女性に思えましたが、生きざまをみせていただきますね とご供養の席から離れようとした瞬間、すごい形相の千代さんを見てしまいました。



 長い髪を粋に結い上げ、着物姿ですが長煙管をくゆらせながら、往来を見るともなしに見ています。
とても艶っぽい女性です。

遊女・・・

 大きな風呂敷で荷物を背負った男性がやってくると、すぐに長煙管を終いにし、階下へと足音も高く降りて行きました。

 そしてその男性が入ってくるを見ると、急にしおらしげになり 荷の中身を興味深そうに手に取りました。
櫛や簪を売り歩いているその男性は、名前を仙七といいました。


 いくつか気に入ったものを手にすると、千代さんは仙七さんの返事も待たずにかなり高額な金子を渡し、さーっと二階へ駆け上がっていきました。

 も もし これではいただきすぎです!

仙七さんの声を 嬉しそうに聞いています。


 これが月に一度の楽しみでした。


 千代さんはその置屋では売れっ子の遊女でしたから、千代さん目当てで来る男性は多くいました。その男性たちからもらった金子を、惜しげもなく仙七さんに渡していたのです。

 
 半年が経ち、仲間の遊女から仙七さんが嫁をもらった という噂を聞きました。
それっきり 千代さんは仙七さんに会うこともなく 身請けされ大事にされて生涯を終えました。
 


 別にどうという事はないのさ
勝手にあたしが入れあげたんだ
それさえ あの人は知らないんだろうけどね

 だけど 悔しいじゃないか
あたしの気持ちはどうなるのさ

そりゃあ そのあとあたしは幸せに暮らしたよ
亭主はあたしを大事にしてくれたからねえ

でもね 知りたいのさ
あたしのことをどう 思っていたのかってことさ
聞いたっていいでしょ?


 千代さんには木の実を渡し、仙七さんに来てもらいました。

 千代さんのことを聞いてみました。


 千代さん という名の遊女 ですか?
さあ どんな方なのか・・・
手前どもはお顔は存じ上げても 名前までは聞きませんので・・・

 いつも値段も聞かず 余分に渡してさっと二階へ駆け上がっていたそうですよ

 少し思案して、やっと仙七さんは合点がいったようです。
 

 ああ あの方・・・
はい 覚えております
常に過分にいただいておりました
おかげさまで蓄えも出来、お恵と夫婦になることができました
ありがたいお方です


 それを耳にすると、千代さんは仙七さんの前に出てきました。

 おお あなたが千代さんでしたか!
その節はご贔屓いただきまして ありがとうございます
おかげさまで 恋女房と所帯を持つことができました
ありがとうございます


 千代さんの手を押し頂き、仙七さんは満面の笑みで感謝を述べました。

 それを聞いて千代さんも 笑顔で言いました。

あたしの金子が役に立ったてわけだね
そりゃあ 良かった
それを聞いて 嬉しいよ

 
 そこへ お恵さんもやってきました。

お恵 この方がいつも話していたお方だよ

そうでしたか ありがとうございます
おかげさまで この人と一緒になれました

 お恵さんも何度も何度も 頭を下げ お礼を言いました。


 そして ふたりは失礼します と先に光の元へと還っていきました。

 
 千代さんは とみると、さほど満足げでもなく つまらなそうにしています。


 どうしました?

いえね どうやらあたしは仙七さんたちの結びの神になったらしいけど・・・

なんだか あほらしい って気にもなっちまいましたよ


そう言って、あははっ と笑いました。
笑っているうちに、千代さんの目からは大粒の涙がこぼれ落ちました。


 言わなくてよかった・・・

そうぽつんとつぶやきました。


本当に言わなくて 良かった と思われますか?
確かに 言っても実らない恋だったかもしれません。
言っていたら どうなっていたと思われますか?


 そんなこと あたしはわからないよ
言っても駄目なら、言わないに越したことはないさ
だって 駄目だとわかったら 悲しいじゃないか・・・


 でも 言わなくても長い間 もやもやした気持ちは消えなかったのでしょ?


 そうだわねえ・・・
亭主もあたしを好いてる ってはっきり言ってくれたから、あたしは一緒になったんだ・・・

 まさか あの人があたしを好いていて 女房に望んでいたなんて 思わなかったから・・・

 そうだわねえ 言ってみればこんなに長い間 もやもやせずに済んだんだねえ

おお 嫌だ あたしとしたことが


そう言って身震いすると、またあははっ と大きな声で笑いました。

そして そのまま光の元へと還っていきました。
羽衣をひるがえした 天女が千代さんのそばにやってきました。

楽しそうに語らいながら どんどん 昇っていきました。




ありがとうございます。

この記事のみを表示する29番目 美和さん

供養

 今朝は 美和さんと仰る女性です。


 きちんと正座され、扇をその膝の前に置いて そして丁寧にご挨拶くださいました。

 了解を得て さっそく生きざまをみせていただきました。

 池の鯉に餌を与えている男の子と乳母の姿を、肩を並べてみている男女。この女性が美和さんです。
平安時代? もう少し先でしょうか。とても身分の高い方のようです。

 一緒に子どもの様子を見ていた男性は、美和さんの夫。とても幸せに過ごしていました。

ところが夫の様子が変わってきました。なにか悩んでいるようですが、美和さんに詳しくは教えてくれません。
それでも、何かあったときは、息子と逃げるように と言いました。

 幸せだった毎日が不安な日々に変わりました。そしてある日、大勢の男たちがやってきて、夫を縛り連れて行きました。

 
 美和さんは乳母と息子新之助さんを連れて屋敷から逃れました。
まだ幼い新之助さんを連れての旅は苦労の連続でしたし、夫のことも気にかかります。
それでも 美和さんは新之助さんに希望を託して、必死で遠くへ遠くへと逃げて行きました。


 そんなある日、声をかけてきた数人の男たち。
美和さんも乳母も警戒しましたが、彼らは新之助さんのお気に入りになりました。
そして 数日一緒に旅を続けました。

 良い人たち・・・

そんな風に思い始めた翌日、男たちは新之助さんと美和さんたちを引き離しました。

 
 気が付けば、美和さんは山賊の頭領の屋敷に居ました。
その屋敷で、丁重にもてなされ 頭領の妻になりました。乳母もそこで美和さんの侍女として仕えました。


 おんなは 殿方を選ばなければ、どこででも生きていけます

 美和さんは寂しそうに言いました。

私はその後 さほどの不自由もなく 侍女となった乳母と共に暮らしました

でも、新之助はどうなったのでしょう・・・
誰に聞いても教えてはくれませんでした
あのまま 殺されてしまったのでしょうか?
それとも 私たちのように それなりに暮らすことができたのでしょうか?

 それが知りたくて 死んでも死にきれません


 美和さんには木の実を差し上げて、まずは侍女の女性に声を掛けました。
ふたりは抱き合って 泣いています。

 その後新之助さんにも来てもらいました。

立派な男の人になっていました。
思わず 美和さんも侍女も 目を見張りました。
言われなければ、どこかですれ違っても通り過ぎてしまうでしょう。

 母上、由利も しばらくでした

そんな風に始めました。
あの時 新之助さんは自分の身に何が起こったのか まったくわからなかったそうです。

 いずれ 母上たちもやってくるから そう言い聞かされて、船に乗り込んだそうです。
でも 待っても待っても 母上の姿は見えない。

 何日も泣いて暮らしたそうです。
しかし 海賊の頭領はいつまでもそんな新之助さんを許してはくれませんでした。

 やがて新之助さんはその海賊仲間のうちでは誰にも負けない剣の使い手になりました。


 母上 それでも私は人を殺めたことはありません
金品を奪う それは仲間として生きる以上仕方のないことでした
でも 私が幼いころ父上から教えられたのは、そんなことではなかった
それだけは、胸を張って言えます


 美和さんも由利さんも 新之助さんの手を取り、あふれる涙を止めることができません。


 私はその海賊の頭になりました
数年は同じように金品を奪う生活をしましたが、その後は土地を手に入れ 村の物と同様に 自分たちで生活することを選びました

 いつか 母上にお目にかかることを夢に見て、決して恥ずかしくない自分でいたい と願っていました
いま やっとその願いが叶い、この喜びは到底口では言い表すことができません


 新之助さんも男泣きに泣いています。


そう言えば 父上は?

 その声に我に返る美和さん。

そうでした 旦那さまにもお会いしたい・・・


 旦那さまが現れました。

 最初に美和さんをしっかりと抱きしめ、次に乳母だった由利さんの手を取り、その後感無量といった体で新之助さんを見つめました。


 そなたが新之助か?

はい 父上 


 もう二人にそれ以上の言葉は必要ありませんでした。
しっかりと抱き合い、静かに泣いています。

その姿を幸せそうに見つめる美和さん・・・


 いろいろな思いはみなさんおありでしょうが、木の下でしばらく静かに木の実を召し上がっておいででした。


 やがて 立派な宝船がやってきて、4人はその船に乗り込みました。
宝船はゆっくりと浮かび そして蒼穹を目指しました。

 船の上では、美和さんはじめ皆さんが ゆったりと笑顔で手を振り続けていました。



 生きざまをみせていただいている途中で、山椒大夫の話が浮かびました。

美和さんと新之助さんの人生は、子供のころに読んだ安寿と厨子王のような 過酷なものではなかったようですが、今も世界のどこかでは人身売買が行われている という事実を思った朝でした。

この記事のみを表示する28番目 陽二郎さん

供養

 今朝は28番目の陽二郎さんのご供養をさせていただきました。


胡坐をかいて座っておられますが、まだ子供さんのように見受けられます。
すぐ後ろには、とても背の高い男性が経っておられます。

 お二人ご一緒ですか?

同じ悩みを抱えているようだから、一緒に供養してください

 陽二郎さんはそう仰いました。念のためお名前を伺うと、健一さんと仰いました。


 それでは、と最初は陽二郎さんの生きざまをみせていただきました。



 真っ白に降り積もった雪の道を黒い長靴を履いた一人の男性が歩いています。
なんだか 楽しそう・・・

 まっすぐに続く道を歩いていくと、ある町に着きました。
すると 男性-陽二郎さんは、おばあちゃんが店番をしているたばこ屋さんへ行きました。

 そして胸のポケットから一枚の写真を取り出すと、おばあちゃんに見せました。

 この女性をご存じありませんか?

 一瞬 おばあちゃんの顔が引きつりましたが、すぐに元の笑顔に戻ると 知らないねえ と明るく答えました。


 その後は、町のどの店で聞いても、出会った誰に尋ねても知らないの一点張りでした。

 陽二郎さんは疲れ果ててその町を出ました。


 陽二郎さんは母を知りません。父も知りません。
物心ついたときには、おばあちゃんと二人暮らしでした。親戚の人もいません。たった二人で生きていました。

 そのおばあちゃんに母親のことを訊ねたとき、この町の名前を教えてくれました。生きているとも死んでいるとも言わず、ただ この町の名前だけを教えてくれたのです。

 陽二郎さんがまだ小学校の低学年の頃のことです。
町の名前を聞き間違えたのかな とも思いましたが、最初に尋ねたたばこ屋のおばあちゃんの反応からすると、やっぱり間違いではないように思えます。

 でも 誰も教えてくれない・・・


 陽二郎さんは、前向きに生きることを日ごろから祖母に教えられていましたから、きっと知らなくてよいことなのだろう と考え、その町を出ました。

 祖母の死後、乏しい財産はすべて処分してこの町に賭けていましたが、どうやらこの町では自分を受け入れてくれそうにないな と感じましたから、次の町まで歩き その町で仕事を見つけ結婚もし、幸せに暮らしました。


 それでもやはり 気にかかっていたんだ
私の母親はどこにいるのか?
なぜ おばあちゃんは教えてくれなかったのか・・・

 では おばあちゃんに来ていただきましょう。


 現れた陽二郎さんのおばあちゃんは、とっても素敵な笑顔でした。

 おばあちゃん!
僕はおばあちゃんが言った町に出掛けたんだ

 するとおばあちゃんの顔がゆがみました。

 町の人の反応はおかしかった
知っているのに 知らない と言ったように僕には思えたんだ
なぜ?
僕はかあさんのことを知りたいだけだったのに・・・


 おばあちゃんは悲しそうな顔で、陽二郎さんの手を取りました。

 
 あの町へ行ってしまったんだね・・・
あの町は私が生まれて育った町だよ
その町で、私はある男性に養ってもらっていたんだよ

 何度か妊娠して、そのたびに堕ろせ と言われた
でも40過ぎて妊娠した時、もう 嫌だと思ったの
もう これ以上赤ん坊を殺すのは嫌だってね
それに 養われていることも もう限界だった
町の人はみんな知っていたから・・・

だから あの町を捨てたの
そして お前を産んだ・・・


 陽二郎さんはやっぱり・・・ という目でおばあちゃん いえ 母親を見ました。


 なぜ 言ってくれなかったの?

言えば、父親のことも話さなくてはいけなくなる
知らせたくなかった
いまでも 知らないはず・・・


 ここまで聞いて、陽二郎さんはすべて納得し母親を抱きしめました。

 言ってくれればよかったのに・・・
おばあちゃんがお母さんに変わっても、僕があなたを大好きなことに変わりはなかったよ

 母親は陽二郎さんに抱かれて 静かに泣きました。

ありがとう
本当にありがとう


 その後 母親は陽二郎さんの父親のことを少しずつ語り始めました。

名前は洋二 と言うそうです。町の有力者で、母親の両親と親しかったとか。
その両親が一緒に死んだ時から、世話になるようになったそうです。

 最初は娘のように接してくれていましたが、妻が亡くなるとお互いの感情が 親子の情のようなものから 男女の愛に変わったようです。

 しかし世間体もあり 籍を入れることはないまま、町の人の口に上るようになりました。

 子供を産まなければ噂を否定できる

ふたりはそんな風に考えたようです。でも 限界だった・・・

 だから 町を出て お前を産み 育てたんだよ


陽二郎さんの目にも 光るものがありました。

かあさん ありがとう
かあさんの子に生まれて、僕は幸せだ!

そう言って、また しっかりと抱きしめました。


 あの人のことを恨んだことはない
一緒に暮らして、確かに世間さまにはあれこれ噂されたけれど、私は何不自由なく暮らせた
何より 陽二郎を授かったんだからね


 しばらくは 木の下で手を繋いだまま陽二郎さんが子供のころの思い出話をしていました。
静かに それでも底抜けに明るい話ばかりでした。

 かあさんが幸せに生きたってことが よくわかったよ
もう 僕にも疑問に思うことは、もう 何ひとつなくなった
ありがとう


 そう言って ふたりは光の元へと昇って行きました。


 私の前には まだ背の高い男性が居られます。
どうしましょうか?
あなたの生きざまをみせていただいてよろしいですか?

そう聞きました。

いえ 今は止めておきます
陽二郎さんと同じ内容ではありませんでした
また 改めてお願いします


健一さんは そんな風に仰り、静かに部屋の後ろに移られました。

この記事のみを表示する27番目 正造さん

供養

 少し空きましたが、27番目の正造さんのご供養をさせていただきました。
まさぞうさん とお読みします。

 正造さんが出てこられる前に、ご供養を待っておられる皆さんがざわめきました。なんだろう と思っていたら、往年の日本の母との呼び名も高い ある女優さんでした。

 しかし どうも様子がおかしい・・・

 生きざまをみせていただいても なんだか腑に落ちないので、お芝居ではなく本当のことを教えてください と伝えました。
それでも 落ち着かないので、私はいったん席を立ち水を飲み、座りました。

そして改めて今夜ご供養させていただく方に出て来ていただきました。その方が正造さんです。



 正造さんは、ぎっちらこ と手漕ぎの船でやってきました。小舟をもやい、その先の粗末な掘っ立て小屋に向かいました。

 そこに居たのはひとりの女性。
おみよさんと言います。身体の具合が悪く やせ細り髪は結うこともせず乱れています。

 正造さんは言いました。

 私は呉服問屋の跡取りでした。友人に誘われて出掛けた遊郭で、おみよと出会いました
私にはもう その時からおみよしかいませんでした。ですから、おみよを身請けしました

 そのことが父親の耳に入り、勘当こそされませんでしたが跡取りからは外され 店で働く身分になりました
結果 おみよには充分なことがしてやれず、こうして病に伏せるようになりました

 あのまま遊郭に置いておけばこんな辛い目に合わせることもなかったのではないか と、悔やんでも悔やみきれません

 その様子をじっと見ていたおみよさんは、言いました。

いいえ 正造さんは悪くありません
私も正造さんと目が合ったとき、この人しかいない! と思ったのです
ですから いまのこの身を情けないとは思いますが、決して恨んだりしていません

 ふたりに木の実を渡しました。

初めて食べる木の実をとても喜んでいます。
そうして ふたりは来世を約束し合い、光の元へと還ろうとしましたが、様子が違います。

金色の光に包まれて還るはずなのに、二人からは黒い帯のようなものが垂れ下がっています。もちろん 簡単に上がっていくことも出来ません。

 そこへ大日如来さまが現れて、二人を引き戻すように言われました。


 改めて地面に降り立ち、正造さんは困ったような顔をしています。

おみよさん 本当のことを教えてください。

 そう言うと、おみよさんの形相が変わりました。

呉服屋の跡取りだと言うから安心して身請けしてもらったのに、正造さんからもらえるものはほんの少し
ご飯を食べるだけにしかなりゃしない

 だから仕方なく 夜鷹になったのよ 

正造さんは驚きを隠せません。

 それで病気になってしまった・・・
そんなこと 正造さんに言えるわけないもの
もっとたくさん渡してくれていたら、こんなことにはならなかった

 恨んだわ
正造さんについてきた自分のことも何度も後悔した
そんなに簡単に赦せるわけはないのよ


なんということでしょう・・・


 そこへやってきたのは、先ほどの女優さんです。

これが私の前世なのよ!
男の言うなりになって 結局幸せになることも出来ず死んでしまった・・・

 私の人生とおなじこと!

 でも正造さんの言い分を聞いていたら、自分が間違っていると気が付いた
おみよさん あんたも正造さんを恨むのは止めなさい
自分を責めるのも もう止めなさいな

 そう言いました。

そして今度は三人でたっぷりと木の実を食べました。
先に 正造さんとおみよさんが還っていきました。

オパールのように光る台座に乗って、ゆっくりと昇って行きました。
しっかりと二人が還ったことを確認してから、女優さんもゆっくりゆっくり 昇って行きました。


 ご供養が終わってから、その女優さんについて調べてみました。

浮き名はずいぶん流されたようですが、生涯独身だったそうです。60代で亡くなられた と知り驚きました。
その方がお付合いされていた方にも木の実をしっかりと食べていただけるようにしました。


ありがとうございます(^人^)

この記事のみを表示する26番目 丑三さん

供養

 曇り空で涼しい朝を迎えました。
今朝ご供養させていただいたのは、丑三さん。 
前に出て来られると、ドッカと胡坐をかいて座られました。

 お名前はなかなか教えていただけませんでしたが、
本当のお名前の方が正しく あなたを理解することができますよ
とお伝えして、やっと丑三さんだとわかりました。

 生きざまをみせていただく というよりは、丑三さんがしっかりと話をしてくださいました。

 俺は丑年に三番目の息子として産まれたのさ。だから 丑三ってな(笑)
貧乏じゃあなかったんだ。だから 俺もちゃんと土地を分けてもらって、百姓をしていたさ。
そのうち 両親が死んじまってよ。
頼れる兄貴でもなかったから、まあ ひとりで生きたさ。

 そんな時 萩が俺の所にふらっとやってきたんだ。
街のおんなだってこたぁ すぐにわかったさ。
しっかし いいおんなだったよなぁ・・・
 アッチの方もな(笑)

 でな、子が産まれたのさ。男だったがな。
その子がまだ乳を飲んでいる時期に、萩はふらっと出て行ったっきり 帰っちゃこなかったのさ。
そこへ ハツ という女が手伝いに来てよ。結局女房にしちまうんだが(笑)
そのハツが よくできた女でなぁ。
俺は助かったんだ。

しかし こころの中じゃあ 萩のことが忘れられなくてな。
ハツに冷たかったとは言わないが、褒めてもやらず そっけない態度のまま死んじまったのよ。
そうなってみると、ハツに申し訳ないことをしたな という思いが湧いてきてよ。
このままじゃあ いけねぇ。ハツに ありがとうよ と是非とも伝えてぇ と思ったんだ。
そうでなきゃ ハツが哀れだ。

わかりました。では ハツさんをお呼びしましょうか?

おぉ 
いや ハツの前に 萩と話がしてぇ。萩を呼んでくれ!

萩さんがやってきました。やっぱり 艶っぽい 粋な風情の女性です。

 おお 萩! 会いたかったぜ!

おまえさん 誰だい?

 丑三さんはギョッとした顔になりました。

おめえ 俺とは子まで生した仲なのに、誰だい? ってぇのは、どういうことだ!

 ああ お前さんとも子を生したのかい(笑)
ああ 思い出したよ、丑三だね

なんてぇこった・・・

 丑三さんは呆れてものが言えない といったふうに、萩さんから離れていきました。

 萩さん 何度も丑三さんとのようなことを繰り返していたのですか?

 子を生したのはそれほど多くはないさ
でもね どんな男の所にも、2年も居やしなかった
男なんて 信じられない生き物だからねぇ
おんなを利用するだけさ。だったら こちらも利用させていただこう ってね(笑)

 なにがあなたをそうさせたのでしょうねぇ。

 そんなことは余計な事さ
ほっといておくれ!

 そうですか、これを食べていてください、そう言って木の実を渡しました。


 丑三さんに ではハツさんに来ていただきますよ と伝えました。
ハツさんは静かに 笑顔をみせようかどうしようか と迷ったような顔で現れました。
そのハツさんに、丑三さんは優しい言葉のひとつも掛けてやらなかったことを詫びました。

 いえ 丑三さんは私を大切にしてくれました
私は子だくさんの家の末娘でした。留という名前を付けてもまだ生まれた それが私です
ですから、家族からは邪魔者扱いされ 両親も年を取っていましたから早くにどこかへ行かなければいけなかったのです

 そういう事情でしたから、私を必要としている丑三さんは救いの神さまに思えました
自分の子供は産めませんでしたが、丑三さんの息子は私を実の母のように慕ってくれて、丑三さんが死んでしまった後も大切にしてくれました
丑三さん ありがとうございました
 お礼を言うのは私の方です

 丑三さんは涙を流しながら、ハツさんの手をしっかりと握りました。

そこへ近付いてきたのは 萩さんです。

良い話じゃないか!
ハツさんって言ったかい?
あんたのような考え方は今までしたことがなかったけど、そうだねぇ 丑三はいい男だったよねぇ
裏切られるのが怖くて 先に逃げちまったけど、真っ当に生きることも出来たんだねぇ・・・

あたしもこれからは あんたのように考えて生きていくさ
自分で自分を不幸にしていたのかもしれない って やっと気付いたからね
ありがとうよ♪

そう言って、さっさと光の元へと還って行きました。

 萩さんの言葉を ポカン として聞いていた丑三さんは、はっと我に返るとハツさんを引き寄せました。
ハツ 本当にありがとうよ

にっこりと笑うハツさんは とっても綺麗♪


何処から来たのか 朱色の牛車がふたりのそばにありました。
その牛車に乗り、ふたりはゆっくりゆっくりと 光の元へと進んで行きました。


ありがとうございます(^人^)